オタクのメモ

文章の練習

リリエールと祈りの国がすばらしく好みに合った話

リリエールと祈りの国がやっぱり好きだったので感想をかく。
面白いではなく好き。ほんとうに好き。
多分、人を選ぶタイプの本である。描写に過激さがあるとか、特殊性癖にかたよったとかではない(と思う)。
ただ、話の構成が、結末が、許せない人も数多くいると思ったし前作を人に勧めたときもそんな感じのことを言われた記憶があるから断っておく。

リリエールと祈りの国は、GA文庫から2017/3/15日に発売されたライトノベルである。
作者は白石 定規さん、挿絵をあずーるさんが担当されている。
祈りの国、領域都市クラウスレイン。すべての祈りが叶うその国で戎呪屋リクレスの店主リリエールと、助手のマクミリアが繰り広げる楽しく愉快でほんのり切ないハートフルコメディ。

白石 定規さんとあずーるさんのコンビは、白石 定規さんの前作『魔女の旅々』からの継続だ。 前作と世界観も共有していて、前作の主人公イレイナさんも登場人物としてがっつり出てくる。いわゆる姉妹作ってやつである。 『魔法使いハウルと火の悪魔』と『アダブラと空飛ぶ絨毯』の関係と同じものを感じた。前作の登場人物がガッツリ出てきて、キーワードも ちょいちょい前作からの重要アイテムから引用されていて、でもお話の主役を張るのは表題の人物だ。 今までのファンにも優しく、これからのファンにも優しい。ウィン・ウィンだね。

閑話休題

内容の話をしよう。
祈りの国、クラウスレインには大聖堂がある。そこで捧げられた祈りはたまーに、気まぐれのように叶えられる。 たまーにでもかなっちゃうものだから、人々は祈りを捧げつづけ、ついには大聖堂の機能がおしゃかになりはじめた。 たまーに気まぐれのように、歪んで叶えられ始めた願いは、それでも叶えられるものだから人は祈りそして歪んだ願いがこの国を傾ける。 それでも人は祈るのをやめない。

その国で表題にもなっている謎めいた女性リリエールが営むのは呪いじみたい祈りを解く戎呪屋リクレス。 そこで起こる様々な"祈り"を助手のマクミリアの目線から書かれていく。

いろいろジャンルのフェチが挟まっているけれど、大筋としてはリリエールとマクミリアのバディものだった。 こういう形のお話は探偵ものに多くて、しかもライトノベル系の書籍だとおおすじが決まっている。と勝手に思っている.

リリエールのことをマクミリアが大好きで大好きで仕方なくて、 無下にされても袖に振られても健気についてって最後の最後でリリエールさんが特大の報いをくれる。 みたいなあらすじが多い。そういうのはお作法に従って作られていて手堅く面白い。

リリエールと祈りの国は探偵ものじゃない。コメディだ。 世知辛くてしょっぱい祈りの国クラウスレインにて楽しく暮らす少女たちのどうにもならない愉快なお話である。

何が言いたいかというとリリエールが徹頭徹尾マクミリアのことを大好きだってことが伝わってきて仕方ない。 かまってほしくてそっけなくしたり、休みの日にぼんやりしながら助手が来ないか待ってみたり、とても愛らしい。 平時の描写から伝わってくるリリエールの姿は、思慮深く計算のできる優雅で美しい女性である。 幾年経っても姿が変わらない描写からはまるでおとぎ話の美しく良い魔女であるかのような風情もある。

しかし、 マクミリアが絡むと容姿相応(年相応ではない)の少女のような描写が増える。傾きゆく国で楽しそうにグチグチいいながら暮らす少女が一人、作中に増えるのである。 ここ、この点がこの作品の大変に面白かったところだ。

幾年経っても姿の変わらない秘密めいた女性、魔法使いの最高位"魔女"まで上り詰めた旅の少女、孤児院の出で冒頭で行き倒れてた無職。 傾き滅ぶことがいずれ目に見えるこの祈りの国で、それでもなお関係ないとばかりに楽しく笑って遊んで暮らしている。 彼女たちは起こりゆく事実をだれよりも間近に見つめている。
そうだろう、彼女たちは祈りを解くことができるのだから。
しかし、祈りを解きつつ楽しく暮らしているのだ。
滅びゆく街を見捨てず救わず、唐突に崩壊させない手助けをしつつ、緩やかな崩壊を見過ごし来るべきときを待ちながら、愉快痛快に暮らしている。 その悠然とした暮らしぶりを300ページ楽しく街の中を散策するがごとき小説、それが今作だった。

劇的に手をくださない。代わりに、そこで暮らし続けるだろう彼女たちの姿が想像できる良い作品だ。

余談

あと、今作もまた微妙にメインストリーム外している感じがすごくして"魔女の旅々"のごとく数冊で打ち切りになる雰囲気がものすごくするので
ファンレターの一つも送って応援でもしようかなと思っている(今日び、紙の手紙の一つも送られる作家さんは編集部もそれなりに注目するというインターネットの噂を信じて)。 あっ、今作でもイレイナさんは普通に良い顔して金にがめついぶれなさを発揮していた。この話は長くなりそうだから魔女の旅々の感想を別に書いたついでに書こうと思う。